総理26の不浄と1つの穢れ

1. もし総理が学ぶことを嫌って郷土と国家を混同したまま国家のために国民が進んで身投げをする美しい国を描くなら、その総理は不浄である。

2. もし総理が外部電源の喪失によって原発事故が起きることは前例がないのであり得ないと主張して新たな検証を拒むなら、その総理は不浄である。

3. もし総理が五輪招致委員会で「わたしが安全を保証します。状況はコントロールされています」と偽りを話すなら、その総理は不浄である。

4. もし総理が「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と偽りを言い、現代世界における国際秩序に挑戦するなら、その総理は不浄である。

5. もし総理が憲法の解釈を適切な議論を経ないまま閣議決定で変更し、自衛権の範囲を総理の判断で拡張するなら、その総理は不浄である。

6. もし総理が特定避難勧奨地域における避難解除の基準を変更して住民の帰宅を可能にし、補償の打ち切りを進めるなら、その総理は不浄である。

7. もし総理が、政府が進める基地負担軽減の取り組みが沖縄の民意を踏みにじるとの指摘は当たらないと主張するなら、その総理は不浄である。

8. もし総理が年金制度の持続可能性を理由に挙げて年金支給額の削減を正当化するなら、それはもはや年金制度ではなく、よってその総理は不浄である。

9. もし総理が、基地建設工事に関連して「土砂の投入にあたって、あそこのサンゴは移している」と嘘を言うなら、その総理は不浄である。

10. もし総理が「絶滅危惧種が存在していたが、浜の砂をさらって別の浜に移していくという努力もしている」と嘘を言うなら、その総理は不浄である。

11. もし総理が「拉致問題を解決できるのはわたしだけだと、わたしが言ったことは一度もございません」と嘘を言うなら、その総理は不浄である。

12. もし総理が国家答弁で「TPP断固反対と言ったことは一回もない」などと見え透いた嘘を言うなら、その総理は不浄である。

13. もし総理が強行採決に先立って「我が党においては結党以来、強行採決をしようと考えたことは一度もない」と嘘を言うなら、その総理は不浄である。

14. もし消費者物価の上昇率に対して賃金の上昇率が下回っているとき、総理が賃金は上昇していると予算委員会で強弁するなら、その総理は不浄である。

15. もし総理が「わたしや妻が関係していたら首相も国会議員も辞める」と発言したあとで公文書の廃棄を始めたなら、その総理は不浄である。

16. もし総理が招待者リストをシュレッダーで破棄し、破棄に時間がかかった理由を障害者が担当したからと説明するなら、その総理は不浄である。

17. もし総理が内閣総理大臣としての年頭所感で憲法改正を政策目標として示すなら、その総理は違憲行為をおこなっている上に不浄である。

18. もし総理が口頭で決済された国家公務員法の解釈変更を閣議決定で承認し、その行為の違法性と違憲性を否定するなら、その総理は不浄である。

19. もし総理が「最悪の事態になった場合、わたしが責任を取ればいいというわけではありません」と発言したなら、その総理は間違いなく不浄である。

20. もし総理が世帯あたり二枚のマスク配布を思いつきで決定し、そうして配布されたマスクが不浄であると解釈されるなら、その総理もまた不浄である。

21. もし総理が緊急事態宣言の解除にあたって総理自身が検証を拒む「日本モデル」なるものの成果を世界に向けて強調するなら、その総理は不浄である。

22. もし総理が給付金の支給の遅れを理由にマイナンバーと銀行口座の紐付けを検討すると言い始めるなら、その総理は不浄である。

23. もし総理が「委託にあっては事業目的に照らしてルールにのっとったプロセスを経て決定された」とでまかせを言うなら、その総理は不浄である。

24. もし総理が代表質問に答弁すべく用意された原稿を取り、「訂正云々」と読むべきところを「訂正でんでん」と読み誤るなら、その総理は不浄である。

25. もし総理が商業捕鯨を再開し、官房長官が「地域の賑わいが増し、鯨文化が次の時代に継承されていく」と発言するなら、その総理は不浄である。

26. もし総理が率いる政党が社会ダーウィニズムの誤った引用を宣伝に使い、無知に助けられて優生学的な思考の土台を築くなら、その総理は不浄である。

もし総理が死んだなら、おまえたちはその死体に触れてはならない。それは穢れたものである。総理の死体を運ぶ者はその衣服を洗わなければならない。総理の死体を運ぶ者は夕方まで穢れる。

佐藤哲也 『総理 2』 N° 537-564 より