『黄金列車』についての覚書 I

この小説はフィクションであり、史実から離れた部分も含まれている。歴史記述としての正当性を要求する意思は一切ないが、読者への便宜及び興味を持たれた方の手掛りになるよう、背景と実際の事件について簡単に纏めてみる。

参考資料

主に参考にしたのは以下の文書である。

Zweig, Ronald.
The Gold Train: The Destruction of the Jews and the Second World War's Most Terrible Robbery
2002

ツヴァイグは当時テル・アヴィヴ大学の歴史学講師だった。現在はニューヨーク大学のイスラエル研究の教授である。
黄金列車の運行以上に、没収財産をめぐる戦後処理に重点がある。日本語訳はロナルド W. ツヴァイグ「ホロコーストと国家の略奪―ブダペスト発「黄金列車」のゆくえ」2008
2002年版と2015年に出た電子書籍版では内容に多少の異同がある。

Kader, Gabor. Vagi, Zoltan.
Self-Financing Genocide: The Gold Train- The Becher Case- The Wealth of Jews, Hungary
2003

ハンガリー語からの翻訳。

ツヴァイグと同じく列車そのものに関する記述は一部であり、相当部分をハンガリーにおけるユダヤ人迫害と財産没収、SSが多額の金品と引き換えにスイスへの脱出を認めたカッツナー列車及びベッヒャー預託金、および米軍管理下に入って以降の没収財産の取り扱いに割いている。

Yad Vashem Archive TR14/24

問題がイスラエルとハンガリーの間で決着を見た際、ハンガリー側から送られた文書。ユダヤ資産管理委員会のトルディとの通信文、会議議事の纏め、戦後ザルツブルクの領事館に提出された報告書、ブダペストにおける政治警察の審問記録を含む。ただしこれは関連文書の一部であり、カデルはブダペストの古文書館にある記録も参照している。

米軍とフランス外務省の文書館にも関連記録があるが、今回は閲覧していない。また、列車を管理していたハンガリー王国大蔵省の官吏たちは、米軍への引き渡し後、ハンガリーの新聞のインタビューにも答えているので、調べれば出て来る筈である。

ハンガリー・ユダヤ人の迫害については様々な視点からの膨大な文献があるが、逐一挙げることはしない。