みじかいひも

 昔むかしあるところに、みじかいひもが落ちていました。荷物をしばったひものはしをそろえて、ちょん、と切ったときにできた切れはしです。

 みじかいひもは広い世界を見るため旅に出ました。すると道のむこうから、少しながいひもがやってきます。

「少しながいひもさん今日は」とみじかいひもは挨拶します。
 ところがなんということでしょう、少しながいひもはみじかいひもを見付けると、ぐるぐる巻きにしてしまいます。
「やめてください、どうしてこんなことをするんです」とみじかいひもは抗議します。すると少しながいひもはこう答えます。
「おまえさんはほんとうにおろかだな。おまえはみじかく、わたしは長い。長いものには巻かれろという言葉をしらないのか」
 それでもみじかいひもはあきらめません。じっと夜になるのを待つと、長いひもは眠ってしまったので、急いで抜け出し旅を続けます。
 すると道のむこうから、もう少し長いひもがやってきます。あっと思った時にはもう遅く、もう少しながいひもはみじかいひもをぐるぐる巻きにしてしまいます。
「なんてひどいことをするんです、あなたは恥というものを知らないのですか」
 するともう少しながいひもは答えます。
「おまえはみじかく、わたしはながい。世の中は不公平だな」
 そんなことが許されてなるものか、とみじかいひもは思います。ただ前より少し賢くなっていたので、うなだれて悲しむふりをしながら夜を待ち、抜け出して旅を続けます。
 すると道のむこうから、もっと長いひもがやってきます。みじかいひもは隠れます。すると、もっと長いひもは大きな声でこう言います。
 「隠れても無駄だ。おまえはみじかく、わたしは長い。弱肉強食の掟に従うんだ」
 怒りに震えながらも、みじかいひもは動きません。もっと長いひもは諦めて行ってしまいます。みじかいひもはまた旅を続けます。
 すると道のむこうから、とても長いひもがやってきます。とても長いひもは、たくさんのみじかいひもをぐるぐるに巻いて、どこにも行けないようにしています。動きがとても鈍いのを見てとったみじかいひもは、勇敢に、でも少し距離を置いて、とても長いひもの前に立ちふさがります。
 とても長いひもは面倒くさそうにこう言います。「おまえはあんまり短すぎるし、色だってつまらない薄茶色だ。お前みたいなひもはいらないよ。さあ、行ったいった」
 みじかいひもは旅を続けます。ぐるぐる巻きにする値打ちもないと言われてとても傷付いたのです。今ではぐるぐる巻きにされることが、とても素晴らしいことに思えてきます。ぐるぐる巻きにする値打ちはあると認めてもらったことになるからです。それに、相手をぐるぐる巻きにするのはどんなに素晴らしいことでしょう。そうしたら、長いものには巻かれろという言葉をおまえはしらないのか、と言ってやろう、世の中は不公平だと言ってやろう、そうでなければ、お前にはぐるぐる巻にする値打ちはないと言ってやろう。
 巻いたり巻かれたりで頭の中を一杯にしながらみじかいひもが旅を続けて行くと、束ねたひもがいるのを見付けます。束ねているのでとてもみじかくみえるひもに、みじかいひもは襲いかかります。
「おまえをぐるぐる巻きにしてやるからな」
 けれどもみじかいひもは本当にみじかいので、どうやっても束ねたひもを巻くことはできません。
 みじかいひもさん、みじかいひもさん、と束ねたひもは声を掛けます。「あなたは長さ1センチもないじゃありませんか。それではぐるぐる巻きは無理ですよ」
 「うるさい、うるさい」とみじかいひもは叫びます。「おまえは黙って巻かれていればいいんだ。長いものには巻かれろ。世の中は不公平なんだからな」
 けれども、みじかいひもは束ねたひもをどうしても巻くことができません。
「ね、無理だって言ったでしょう。別に落ち込むことはありませんよ。巻いたり巻かれたりは、別にしなくてもいいじゃありませんか」
 「うるさい、うるさい、おまえは巻いて貰えなかったのが悔しいからそんなことを言うんだろう。だけどおれはおまえを巻いてやらないからな。世の中は不公平にできているんだ」
 そう言うと、みじかいひもは束ねたひもに背を向けて、壁にむかってうずくまり、いつまでもいつまでも繰り返し続けるのでした。
「おまえを巻いてなんかやらないぞ、世の中は不公平なんだ。おまえを巻いてなんかやらないぞ、世の中は不公平なんだ」